歯にまつわる不適切な表現とは
不適切表現その1
「虫歯が痛い」
痛いものの代名詞のように
思われている虫歯ですが、
虫歯そのものは痛いものではありません。
歯は貝とよく似た構造をしています。
貝は内部に軟らかい肉(身)と、
外側に硬い殻と大きく分けて
二つのものからできています。
歯もこれと同じで、
貝の肉に相当するものが歯では
「歯髄」と呼ばれています。
一方、貝の殻に相当するものが
歯の外側を覆う硬い物質で
いわゆる歯の部分です。
虫歯という病名は、
バイ菌によって齒の硬い部分が溶かされて
穴があいてしまう病気に対して付けられた
名称ですが、
歯の硬い部分がどんなに壊されようと、
ここには神経が通っていないので
痛みを感じる事はありません。
ですから虫歯は痛くない病気であり、
虫歯が痛いという言い方は誤りです。
ではなぜ、虫歯が痛い病気に
されてしまったのでしょう。
歯の内部には歯髄と呼ばれている肉があり、
ここにはあらゆる刺激を痛みとして感じる
非常に敏感な神経が通っています。
虫歯のバイ菌が硬い殻を壊し
やがて歯髄に達してしまうと
歯髄が病気になってしまいます。
この状態を歯髄炎といい
夜も眠れぬほどズキズキ痛むこともあります。
ですから虫歯が痛むと言っているのは、
歯髄炎の痛みを虫歯の痛みと
混同してしまっているのです。
ここで問題なのは、歯髄炎は
基本的には直らない病気だということです。
ですから我々歯科医は、
歯髄炎の痛みを取り除くために、
歯髄炎を治すのではなく
歯髄を取り去るという事をします。
一般的にはこれを
「神経を取る」と言っています。
貝は身を取られてしまえば死がいです。
これと同じで歯髄を
取られてしまった歯も死がいです。
死がいと化してしまった歯を
抜かれないようにしていくことは
容易な事ではありません。
ですから、虫歯で歯が抜かれないようにするために
一番重要な事は、虫歯は虫歯のうちに、
歯髄炎の痛みがでる前に治す事です。